社員に顧客獲得の拡大について論じさせると、必ず「値下げ」策と「広告」策が出る。だから、私の会社では、「値下げ」と「広告」については、論点の対象外としている。それは、知恵を出す工夫が生まれないからである。
ある私立高校では、近年の少子化の影響から、ここ数年受験する数が減ってきた。受験生が減るということは、当然、入学者も減るわけで、学校では対策が論ぜられた。そして、その学校が考えたのは、入学レベルを下げることであった。
入学レベルを上げるよりも、下げたほうが、その学校のポジションからするとより多くの受験生が対象になるだろうと考えたからだ。
数値で説明すると、10段階の上から3番目に位置していたこの学校は、これまで上位2番目、下位4番目程度が受験の対象とされていた。
しかし、人口ピラミットで見た場合、平均的な5、6番目のほうが対象が多いと考え、2段階引き下げて、5番目に位置づけさせようと考えたのである。こうすれば、上位4番目と下位6番目の最も多い層から支持が得られるのではないかと考えたのである。
しかし、結果は、散々たるものであった。最初の年は、レベル3のあの高校に入れるという淡い期待から、確かに受験生が増加した。
ところが、2年目以降は、学校のレベルが下がったというイメージが広がり、名実ともにレベル5の学校に下がってしまった。その結果、最も人口ピラミットが多い市場で、最も競合する学校が多い階層に入ってしまったのである。つまり、優秀な部類にいたはずの名門校が、一瞬にして伝統というブランドを破壊してしまったのである。
商品ブランドというのは、常に上を向っていなければ、現状を保つことはできない。常に上位を狙っていても、現状維持がやっとのである。
だから、少しでも下を向えば、ブランド力は転げ落ちることになる。商品や企業のブランディングといのは、長年かけて少しづつ上昇させるものである。
商品というは、不思議なことに、人口ピラミットとずれることが多い。購買心というのは、欲求の表れだから、自分の背丈より手が届く範囲で少し上のランクのものをほしがるのが心情である。1円でも安く買いたいけれど、中身は1円でも価値の高いものを選ぼうとする。
昨今の学校事情で言えば、進学校と呼ばれる学校ほど競争率は高い。誰もが、自分の背丈と同じ高さの学校を選んでいたら、人口ピラミット的に考えて、このような結果にはならない。誰もが少し上を目指しているから、上に行けば行くほど人気が上がるのである。
ビジネスにおいて言えば、「値下げ」というのは、実は「値上げ」よりも本来難しいことなのである。
生ものであれば賞味期限が過ぎたとか、お客が納得できる「値下げ」理由がないと、商品のグレードが下がってしまう。競合他社に対抗して「値下げ」する場合にも、「このような合理化ができたので値引きします」という明確な理由がないと、価格が下がるということは、質が低下すると判断されるからである。
本題に戻すと、ここでは「値下げ」の難しさを説明したい訳ではない。「値下げ」や「広告」以外の方法で知恵を出す工夫をしてほしいことを考えてほしいのである。企業家の力量が最も出せるのは、創業して間もないお金のない時期である。お金がないために「広告」も出せない。
だから、別の方法で目立つようにする。「値下げ」したくないから、別のサービスを付加して、価格は維持するなど。
お金がないということは、知恵を生む原動力になる。お金があると、知恵を出す労力を惜しみ、他人のアイデアに乗ろうとする。
お金があると、必然的に安易なほうに行ってしまうものである。会社経営というのは、どんなに大きくなっても、お金がない、人がいないというのはなくならない。だから、何もないことを前提に考えられる組織作りが重要になるのである。
ないものから生み出す組織が最も強い。創業時の活気を維持することは重要である。活気がある組織は、必ず伸びる。
ビジネス理論の基本にランチェスター戦略というのがある。これによれば、中小企業が取るべき戦略と大企業が取るべき戦略は、全く逆である。中小企業は、大企業ができないところを狙い、大企業が大資本を投入しても利益がでない隙間で勝負することがよしとされている。
経営者であれば、当たり前のように知っているはずである。
パイの大きなところで勝負するには、大きな力が必要になる。本当の勝負とは、混戦の中に入って勝つことではなく、勝負を避けることである。勝負しなくても良い市場にいることが最も強いのである。そのことを念頭において戦略を考えないと、金が必要となる戦略しか打ち出せなくなる。
「広告」においてもしかりだ。マスで勝負するには、体力が必要なのである。
お金がないことを武器にした、手作りの戦略が究極のランチェスター戦略である。これが出来れば、勝負に巻き込まれることはない。
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投稿者 :堀田信弘: 2005年3月15日 07:16