【堀田信弘の今日の語録】 『この会社は、きっと伸びるだろうな。他の会社と違うことができること自体に可能性を秘めているから。』


経営者について  「活・喝・勝」


上を見る時と下を見る時

大衆文化について、芸術家は悩む。

音楽の世界でも、美術の世界でも、芸術性と大衆性というのは、時間的ギャップが起きる。先駆的な取り組みで、専門家より絶賛される作品が、大衆に受け入れられるかというと必ずしもそうならないのが現実である。

有能な芸術家は、売れることと、才能とのギャップを感じ、視点を未来に向けるべきか、現代に向けるべきか悩む。現代にあわせれば、先進的な試みよりも、大衆のニーズを意識した商業主義となり、未来志向であれば、大衆の感覚とズレが生じ、売れなくなる。

芸術の世界だけでなくても、同様の事象は起きる。かつて、VTR戦争では、ソニーのベターとビクターのVHSが争い、解像度や将来の拡張性などの技術力ではソニーのほうが上回っていた。

しかも、ベータは、VHSよりコンパクトで、発売当初は、一部のマニアの間で大ブレークした。ソニー神話が生きている時代だったため、評論家やオーディオマニアの間では、誰もがベータの勝ちを確信していた。技術的にも、製品的にも上であった。

しかし、勝ったのは、VHSである。強力な販売網を持つ松下がビクター側につき、それをきっかけに業界全体がVHSに流れた。

芸術でも技術でも、モノ作りの世界は、商業的結果と相反することがしばしば起こる。どんなに優れた技術であっても、大衆の心をつかめないこともあれば、どんなに大衆の心をつかんでも、業界標準というディファクトスタンダードには勝てないことが起こる。

弊社のマッチングサービス「イージョブゴー」には、熱烈なファンともいえる会員が何社もある。大変ありがたいことだ。しかし、どんなに弊社のサービスが優れているのを認めてくれても、過去のしがらみや業界団体との関係で、利用できないと言う企業もある。

弊社のサービスに欠点があるのなら、喜んで直すのであるが、サービスの良さを認めていても加入できないという不条理なことだ。

私は、芸術家でも技術者でもないが、商業主義や大衆化よりも、上を向いた展開をしたいと思っている。つまり、どんなに負けてもソニーのような技術や製品力で勝負したい。

しかも、現代の大衆ニーズに合わせるのではなく、未来のマーケットを生み出すようなサービスをしたいと考えている。

私の義父は、画家だ。彼は、決して大衆に自分を合わせようとしない。芸術家は、今売るための作品を作るなら死んだほうがましだと言う。

将来売れるだろう作品に挑戦している。今の大衆に合わせるのではなく、未来の大衆を引き付けるために、大衆の考えをこちらが変えさせるのが芸術家だと教えてくれた。

経営者も未来志向でないとダメだと思う。大衆に目線を合わせるより、大衆の目線を変えるビジネスをしたい。

それで、食えるかどうかは別だが、経営者が壮大な夢を追いかけず、目線を下にあわせたら、一時的には食えても、存在価値はないだろう。常に、一歩も二歩も上を向いて行こう。

経営者の考えは、上を向いて考えることだ。下を向いて、現在にニーズに合わせるのは一流ではない。

将来のニーズを創出できる人が本当の経営者である。しかし、一方、心は、下を向いていないといけない。

上を向いている経営者は、傲慢になる可能性がある。大衆という平均的な考え方を見下ろすと、玄人好みの、取っ付き難いプライドの塊になる。旧財閥系のある商社の社員は、世界中を相手にしているという自負、自信から、下請けを食い物にしていた。

まだ30代だというのに、取引を条件に、毎晩のように銀座で接待を要求し、王様のような気分でいた。そんな会社は、どんなに伝統がある一流企業でも必ず不祥事が起こる。

会社が出来て間もない頃は、人の出入りが激しいことが多い。会社が出来るまでは最も信頼できた右腕が、会社設立後に去ってしまうことがある。

この問題の原因は、トップにある。理想と現実の狭間で葛藤するトップは、精神的余裕を無くすと、部下を侮辱してしまうことがある。

人間は、自分の考えが上を向いた時、下の気持ちが読めなくなる癖がある。また、逆に、トップが下を向いた考えをすると、下の人間は、トップに幻滅する。つまり、上を見るときと下を見るときが間違っているのである。

有能な人は、下の立場にある人の心を察するのが上手い。能力の高い人ほど、弱い立場にある人との関わりを大切にしている。

本当に優秀なリーダーというのは、優秀な部下だけでなく、出来の悪い部下からも人気がある。それは、下への配慮を欠かさないからだ。

経営者というは、上を見て考え、下を見て感じなければならない。目指すものは、大衆よりも上を、大切にするのは、玄人よりも素人の大衆の心なのだ。この矛盾した考えと心を両立させることができる経営者は、芸術性と商業主義を両立できる社会的な賢者である。

そんな一人になりたいと私も努力している。

最後まで読んで頂き、感謝申し上げます。

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投稿者 :堀田信弘: 2005年3月25日 22:03