ダイヤ重視の経営が、過去最悪の列車事故を生んだ。死者100名を超す大惨事。
JR西日本では、運転手に秒単位でのダイヤ厳守を徹底させ、違反者には乗務手当の減給や、乗務禁止などの厳しい罰則を設けていた。
運転手は、ビクビクしながら緊張して運転していたことだろう。
皮肉にも、経営戦略は当り、3月期決算では過去最高利益を発表する矢先のことであった。車両を軽量化、ステンレス製にすることで、環境にも配慮した燃費の向上に繋がり、列車のスピードアップが行えた。
同じ区間を並行した走る私鉄との競争では、少しでも早く目的地に到着することが利用者満足度が高まると考えた。利用者が増えれば、本数を増やし、益々利便性を向上させる。
正の循環になれば、売上が増加し、利益が拡大する筈だった。ところが、一遍して負の循環になると、これまでの施策が全て裏目にでる。
車両をステンレス化したため、事故の衝撃をもろに受け、車体はペチャンコになった。スピードアップと本数増加により、ダイヤが過密になり、少しでも遅れた際の影響が大きくなった。
列車の遅れは、利用者の満足度を下げることになるため、遅れを悪として、厳しい処分を下すことに繋がった。
処分されるのを恐れる運転手は、一つ手前の駅でのオーバーランについて虚偽の報告を行い、そのウソをリカバリするために100キロを越える猛スピードでカーブに突入した。
事故が起きてみれば、このように分析ができるが、事故が起こらなければ、経営的には全てが万事のように思えていたに違いない。
アメリカの技師ハインリッヒは、労働災害の発生確率を分析し、ハインリッヒの法則を発表した。
保険会社の数々の統計に役立てられているこの法則は、1:29:300の法則とも呼ばれ、1件の重大災害の裏には、29件のかすり傷程度の軽災害があり、その裏にはケガはないがひやっとした300件の体験があるというものだ。
恐らく、300件を超すオーバーラン事故などのひやっとした体験は、罰則という処分を恐れ、
虚偽の報告によって29件の軽災害を見落とすことになったのであろう。経営者は、29件の軽災害から、1件の起き得る重大災害の予測と、300件もの取り巻く環境について気づかなかったのである。
厳しい罰則は、虚偽を生むことになり、それによってハインリッヒの法則は機能しなくなった。
事象が起きてから分析することは誰でもできるが、起こり得る事象を察知することは難しい。
これは、経営者にとって、重要な仕事である。
例えば、ハインリッヒの法則を営業マネージメント的に応用すると、顧客からの一人のクレームは、クレームまでは言っていないが29人もの不満があると言える。逆に言うと、商品やサービスに不満がある30人のうち、29人は何も言わず、たった一人だけがクレームを言ったことになる。
不満客までは行かないが、サービスに少し不安があったり他社のサービスのほうが良いと思っているような不安客は300人もいる。
つまり、自社のサービスに満足を示さない99.7%もの顧客は、何も言わないということである。
クレームが発せられるのは、不満を持った客のわずか3.4%だけである。だから、たった一人のクレームは、経営者にとってとても重要なヒントをくれるのである。
しかも、ビジネスの世界では、この3.4%の人の大半は、もともと自社のサービスのファン又は興味旺盛な人が多い。そのため、クレームはその反動となって現れるのである。
商売に理解がないか、関心がない人は、クレームとして表れないのである。だから、クレームというのは重要な経営ファクターなのである。
経営者は、社員の言わざる声を聞く耳を持っているだろうか。社員が会社に不満を口にし、何かを訴えようとするのは、わずか3.4%だと考えると、何百人もの社員が同じ問題で不満に感じ、何かを感じ取っていたことは間違いない。
社員であれ、顧客であれ、言わざる声を聞く耳をどう持つか、これが経営者の将来予測する力量なのだ。
私は、まだまだだ。これから、聞こえてこない言わざる声を聞く耳を持てるよう、謙虚になろうと思う。
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投稿者 :堀田信弘: 2005年4月27日 23:54