慣性の法則というのがある。電車が発進する時、進行方向とは逆方向の力が発生し、吊革は後ろに揺れる。電車がブレーキをかけると、立って乗っている人は前に倒れようとする。
このように、電車の力、方向性とは逆方向の力が働いて、それまでの状態を保とうと抵抗する力のことを慣性力という。
慣性力の大きさは、物体の質量に比例するという性質がある。重い物体を動かすためは、重ければ重いほど大きな力が必要となるが、一度動き出した重い物体の動きを変化させるには、動かしたときと同様に慣性力という抵抗が自然発生するので、大きくて重いほどこれまでの方向を変化させるには大きな力が必要となる。
人間の集まりである組織にも、この現象は見事にあてはまる。
組織という電車に乗っている人の数が多ければ多いほど、スタート時に加速させるための力は、より大きな力を必要とする。
やっと動き出した後も、世の中という外圧が発生し、環境変化を求められても、そのときに発生する現状を維持しようとする慣性力は強力だ。
だから、大企業になればなるほど、社歴の古い会社ほどその組織を変化させるには困難が伴う。
組織の中における質量は、単なる人数という数だけではない。人には、体重の重い人と軽い人がいるわけで、人数が多くても軽い人の集まりであれば、それほど抵抗する慣性力は発生しない。問題は、体重の重い人が多い場合である。
組織の中で体重の重い人とは、マネージャーなどの管理職や幹部、またはその組織に長く乗車している古参社員である。
まず、組織を変えるなら、この重さを形成しているところからメスを入れなければ進まない。
新興企業がどんどん上場する中、なぜ大企業が衰退してしまうのか、それは、慣性力との戦いに敗れるからである。リーダーが、組織の重さに押しつぶされてしまうからに他ならない。
ところが新興企業は、歴史がなく、身軽で、新しい仲間からなるシガラミの薄い組織なのである。トップにバイタリティがあれば、慣性力を押さえ込み、若い企業はどんどん成長する。
だから、新しい会社ほど、トップの能力・カラーが重要なのである。ところが、社歴を積むと、そう簡単でなくなる。
トップが変われば組織が変わると言われるが、実は、そう上手くは行かないことが多い。変わるという意味は、文字通り交代するの意味もあれば、行動や考え方を変えるの意味も含まれている。しかし、現実の組織では、自らが生まれ変わったつもりで自分の意識を変えても、交代すると同レベルの変化を期待するのは、極めて困難である。
その理由は、慣性の力から生まれている組織の質、言い換えれば組織の風土があるからである。まず、風土の中枢を変えなければダメだ。
慣性力は、数や重さなどの量だけでなく、質によっても影響を受ける。量は目で見えるが、質は見えないから厄介である。
同じ電車の中でも、ギュウギュウ詰めの状態と、ガラガラの状態では、慣性力が働いた時の影響が異なる。満員電車の中では、自分がしっかりと踏ん張っていても、比較的体重の重い人がグラリとすれば、その人と隣り合わせになっている周囲の人も同時に影響を受けることになる。
この現象は、地下鉄と新幹線のような乗り心地も含めた組織の形状、大きさが違うことも起因している。
組織においても、組織の中が風通しの良い状態であれば、ある程度の揺れに対応できるのだ。その質の違いが風土である。風土は、その中にいるすべての人が形成している訳だが、風土を色で表したときは、必然的にトップのカラーに近くなる性質を持っている。
どんな大きな会社でも、小さな会社でも量と質からなる慣性の力を持っている。世の中の環境変化に対応できる組織にするには、量を軽くし、質を良くすることをしなければならない。さもなければ、時間と共に自然に量が重くなり、質が悪化し、慣性力が増すのである。
自然に増大する慣性力を抑えるには、意識して、その自然の流れに立ち向かう姿勢が重要である。意識せぜ、増大してしまうことを知っていなければ、こうしている間にも刻々と悪化の一歩を辿っいる。
簡単な対策で言えば、長く乗車している人や体重の重い人を分散配置し、乗る車両を異なるようにするという組織変更が必要となるだろう。
そして、トップが常に、終わりのない環境変化を望んでいることを、繰り返し繰り返し語ることが、機敏に対応できる風土の基礎となるのである。
そして、組織変更や人事異動を定期的に実施する。
しかし、もし、歴代のトップが意識して立ち向かうという考えを持っていなかったらどうなるだろうか。
風土の根底に、慣性の力が根を下ろすこととなり、いざその上の中身を動かしても、根っこがそのままの状態で残ってしまう。
そのような組織では、例えトップが交代しても、相当なショック療法と根こそぎ変えるようなものすごいエネルギーが必要となる。そして、老廃物が溜まれば溜まるほど、組織の衰退が近づき、やがて危機が訪れ、強制的な変革を求められても、もう手遅れという事態になるのである。
つまり、トップが変われば組織が変わるような組織はまだ良いほうなのだ。トップが交代してても、「どうせ変わらないだろう」と考えている人が多い組織のほうがむしろ多く、そのような一人ひとりがその悪の根源である風土を築いているのを気がついていないのである。
私は、これまでの経験で、人は根本的に他人によって変えることはできないと考えている。どんな優れたリーダーでも、人間を変えるようなことは不可能だし、人の性格を変えるのが仕事でもない。しかし、リーダーは、組織を変えることは可能である。
組織が変われば、同じ人間でも行動が変わる。性格までは変えられないが、行動が変われば、考え方が変わってくる可能性がある。
だから、リーダーがやるべきことは、組織の形と質を変えることなのである。もし、リーダーが形を変えようと思えば、直ぐに一瞬で変えることができる。社長であれば、形を変え、中身を変えることなど容易いものだ。
しかし、それだけでは、組織の形は変わっても体質は変わらない。その最大の原因は、リーダー自らが関与している風土への影響である。
リーダーが変えたいと思っている風土は、実は、リーダーの性格によって形成されていることが多いからである。それに気がつかなければ、組織の形を変えても、時間と共に、また同じような風土ができあがる。
若しくは、中身をひっくり返して、組織を変えた途端、空中分解することになるだろう。
普通のリーダーは、空中分解するのを恐れ、そうなると予感しているから、組織を変えることができないものである。
そのような風土にしないためには、リーダー自身が進化していく姿、リーダー自らが変わっていく様子を日ごろから組織内に見せなければならない。組織に変化を求めるということは、リーダーが率先して変わるということを知らしめなければならない。
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投稿者 :堀田信弘: 2005年11月15日 07:56