イソップ物語に「ろばをかついだ親子」という話がある。
こな屋のおじいさんが子供を連れて、市場にロバを売りに行くという話である。途中で二人を見た人が「暑いのに汗をかいてロバを引いて歩いているよ。ロバに乗っていけば良いのに。」と言っているのを聞いたおじいさんは、なるほどと思い子供をロバに乗せる。
しばらく行くと、今度はおばさんが「この頃の子供は、自分がロバに乗ってすましている。年寄りを歩かせて平気でいる。なんと悪い世の中だろう。」と言うのを聞く。
なるほどと思った二人は交代する。そして、またしばらく行くと、旅人が「この頃の年寄りは、子供を歩かせて平気でいる。なんと悪い世の中だろう。二人とも一緒に乗っていけば良いのに。」と言った。
なるほど思ったおじいさんは、子供も一緒に乗せた。すると、後ろから来た人が、「かわいそうに。いっぺんに二人も乗るから、ロバはひょろひょろに弱っている。こんなに弱り切ったロバはいい値段で売れるものか。二人でかついで行ってやれば良いのに。」と言われる。
なるほどと思ったおじいさんは、ロバの四本足を綱で縛って棒でかついだ。この様子を見た町の人に「この暑いのに、ロバをかついで行くなんて、ばかだな。」と言われながらも、「市場はもうすぐだからがんばろう」と歩き続ける。
市場の手前の橋の上についた時、つるされて苦しかったロバが暴れ出し川に落ちてしまう。
この話は、マーケティングにも通じるものがある。
商品やサービスを開発するには、顧客のニーズを取り入れるは当然だ。しかし、ニーズには、顕在化されているものと潜在化されているものがあり、この違いを正しく理解していないとビジネスは成功しない。
ソフト開発受託のような場合は、顧客のニーズを十分に理解して100%取り込まなければならない。顧客の顕在化されているニーズを、要件定義という形で取り入れることが重要な作業なのだ。
ところが、独自のサービスやパッケージ商品を開発するには、顕在化されている顧客ニーズを取り入れることだけでは上手く行かない。むしろ、潜在化されているニーズを引き出し、提案することが重要になる。
例えば、弊社が行っているイージョブゴーというサービスについて、機能拡張をするとき、顕在化されているニーズと潜在化されているニーズのどちらが重要かという問題が生まれることがある。
これまでの私は、システム会社でSEの経験もあることから、どうしても顕在化されたニーズを優先しようとしていた。しかし、独自のサービスを提供するには、潜在化されているニーズを優先しなければ行けないと思えるようになった。それは、営業活動をするようになってからだ。私は、以前から、営業部は、セールス部ではなくて、マーケティング部だと言っている。
ではどうすれば潜在化されているニーズを掴めるか。
それは、多くのお客と会う以外にない。お客の生の声を聞くことが第一歩である。でも、それだけでは、実は、顕在化されたニーズしか聞くことができない。ある人は、クレームを言い、ある人は、機能改善を求める。こちらのニーズを優先すれば、あちらの望む方向性と逆になることだってある。つまり、顕在化されているニーズを聞いていたら、百人百様であり、収拾がつかなくなってしまうのである。
そこで、潜在化されているニーズを見つけることにする。潜在化されているニーズは、決してお客さまの口から聞こえるものではない、潜在化しているのだから当然だ。聞こえない、見えないものが潜在化ニーズなのだから、それを見えるようにすることは感性が重要になる。簡単に言えば、顕在化されたニーズの一歩先にあるのが潜在化されているニーズであるから、全ての顕在化されたものを取り入れるというのではなく、最も感覚的に「これはきっと喜ばれる」と思えるようなものに的を絞る。
私は、独自の商品をつくるには、客に言われたからその通りにするだけではダメだと思っている。お客に言われたことの本質を理解し、言われたことを包含しつつ、大幅にそれを超えるような答えを見出せなければ、独自な商品など生まれないのである。
そして、潜在化されているニーズをどこよりも早く察知し、取り入れたところは、独自のシーズ商品を持つことになるのである。これからのビジネスは、ニーズからシーズへの転換が重要なのだ。言われたことだけをやっているだけでは、先端の、最新の、オリジナルのオンリーワン商品など生まれやしない。
イソップ物語の「ろばをかついだ親子」は、人の話に一喜一憂して、気持ちが流されているようでは、何事も上手く行かないということを言っている。
この話は、組織のリーダーシップを取る上でも参考になるだろう。リーダーは、多くの部下の声に耳を傾けることは大切であるが、こうしてほしい、ああしてほしいという欲求ばかり聞いていると、組織がまとまるはずがない。リーダーは、「私はこう考える」ということを示し、それを理解させるのが仕事である。これは、リーダーはニーズ型でなくて、シーズ型でなくてはならないとも言えよう。
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投稿者 :堀田信弘: 2006年8月26日 10:28