先日、ダイエット食品販売や不動産なども複数の会社を経営している女性社長と会食した。彼女は、離婚した年にひとりで起業し、今では豪邸に住む勝ち組だ。その社長の悩みは、後継者。外資系大手メーカに勤めていた長男を自社の社員にして”再”教育中とのこと。
”再”教育中というには、中小企業の経営者にとって大手で受けた教育は意味がないこと。大手でサラリーマンをして、創業経験がない二代目は、軟弱だからである。大手の看板で仕事ができ、大手の企業論理でイレギュラーを嫌い、形に拘ることを壊すことで”再”教育する。大手で受けた教育は、零細企業ではむしろ邪魔にすらなるのである。
今では成功した会社であっても、その会社は零細企業から、中小企業という成長段階を経験している。零細企業の辛さを経験しているオーナー社長は、強い。
彼女曰く「大手を経験した人は、中々大手のやり方を忘れることができない」と嘆く。大手というのは、社会的認知があり、社会との共生、コンプラインアス(法遵守)、規律など社会との関わりを意識した”理想”を追求する段階にある。その理想を求めなければ、一万人の社員のたった一人が問題を起こせば、会社の社会的信用を失い、地位が低下する。一度低下したものを上昇させることは大変だから、会社全体がリスクヘッジ型の経営となる。
一方、零細企業というのは、明日の資金繰りにも困る”現実”がある。どんなに素晴らしいアイデアや技術があっても、明日の資金が何とかならなければ明後日にその技術を見ることはできなくなる。
経営とは何なのか。
理想を追い、現実をクリアーすることだと私は考えている。
これは、政治にも通じることがある。理想を追い、現実を見ないで理想論だけを言っていても政治は動かない。福祉重視、戦争反対はどの政党も同じだが、福祉のための財源をどうするか、北朝鮮がミサイルを撃ってきたらどうするか、日々の現実をクリアーして行かなければ、行き詰る。逆に、財源がないからという現実だけを考えて歳費削減だけをやっていては、国にの発展も社会の幸福もないがしろになる。
理想が先か現実が先か、会社を創業した人であれば誰もが直面する疑問だ。
しかし、その人が今もその会社の経営をしているとすれば、現実をクリアーしてきているのには間違いない。現実をクリアーした人で会社を潰した人は少ないが、現実をクリアーできなかった人は100%潰れている。
創業したばかりの零細企業の経営の最大の目標は、いち早く軌道に乗せることである。軌道に乗せるということ自体、まさに現実なのである。どういう夢のアイデアを考えるかとか、どうしたら優秀な社員を採用できるかと理想ばかり考えていても一歩も先に進まない。零細企業には優秀な人は応募してこない、この現実から逃避して夢ばかり見ているのではなく、まずは社員を採用して行くことである。
そもそも零細企業でかつ、創業したばかりというのは、そのことが自体がリスクの塊なのだ。それ以上、リスクを負いたくないと理想を言う前に、多少のリスクがあってもまず取り入れる勇気のほうが重要なのである。出来の悪い社員を採用するリスクよりも、社員を増やして行くことで、次第に中身を変えて行く。会社がまだまだなのだから、社員がまだまだの人しかこなくても、それが現実であり当たり前なのである。
以前、私は、「量質転化の法則」というのを書いた。量を優先するか、質を優先するかというは理想か現実かと同じである。
その問いは、一方を選択することと勘違いして受け取られることが多い。私は、二者択一ではなく、どうしたら成功するかの方法論と考えている。方法論というのは、考え方であるから、違った方法論があって当然だし、経営の世界ではこれが唯一の正解というものもない。ようは正解をだした人の言うことが、正しい方法論なのである。正解を出していない人の方法論は、空論であり、その人と議論をする余地はない。
私は、断言する。質を求めるのだ、そのためにまず量を増やしなさいと。経営は理想だ、理想は常に追い求めなさい、そのためには現実を最優先でクリアーして行きなさいと。全く逆の意見を言う人も決して間違いではない。間違いではないが、それがその人の正しい答えと言えるのは、その人がその方法で成功したか否かだ。
前述の女性社長は、「成功もしていない人は理想論を言うな」と毎日叱っているそうである。全く同感である。
軌道に乗せ、社員を途方に迷わせないようにするということは、「人殺し」以外なら何でもする位の覚悟がなくては成し遂げられない。「私は、そんな思いまでして会社を守りたくない」という人は、社員の家族を守ることなどできない。私なら、私させ捕まってそれで社員を守れるのなら、私の命も生活も投げ打って良いと思っている。
大体、社長が社員より裕福な生活ができるというのは、明日どん底に落ちるかもしれない覚悟があった上での一瞬の恩恵なのである。
現実を見ろ、泥をかぶれ、寝技も重要だ。しかし、決して理想は忘れるな。一日も早く公明正大な経営ができなくて行けない。
高度成長期は、どんどん建設ラッシュが進んだ。日本の戦後復興は世界の奇蹟である。成長を優先し、国民の生活水準は大幅に向上し、世界第二位の経済国に発展した。しかし、成長の後は、公害などの環境問題も生まれる。そして、投資を優先したがために膨大な借金も生まれる。それを是正するために、無駄を省き、リストラが起こった。フリターが生まれ、中流社会が崩壊し格差社会となった。
会社でも同じだ。問題をクリアーすれば、新たな問題が生まれる。これが現実である。もし、まだ起きていない環境問題を先に考えていたら、そもそも高度成長期などなかった。成長したから環境問題が生まれたのだ。
理想を追い、現実をクリアーするというのは、理想を実現するには、大きな理想を目指すためには、目先の小さな理想をも犠牲にすることさえある。現実を優先し、小さな理想は次の段階に送る。しかし、次の段階では、そのはもう理想ではなく、クリアーすべき現実の課題にするのだ。現実の課題になった以上、それをクリアーすれば、一歩理想を成し遂げたことになる。
現実をクリアーし、理想を成し遂げた人の方法論は理論ではなく、経験である。その経験をしていない大手サラリーマン出身や、いま会社を起業した人は、空論の理想論など考えている暇があるのなら、いち早く走り回って汗を流したほうが余程ましだ。頭でっかちの経営者ほど失敗することが多い、これも現実だ。
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投稿者 :堀田信弘: 2006年10月23日 09:19