【堀田信弘の今日の語録】 『この会社は、きっと伸びるだろうな。他の会社と違うことができること自体に可能性を秘めているから。』


障害者について  「活・喝・勝」


暗黙知と形式知

私の家のすぐ近くに、つくばリンリンロードという自転車専用道路がある。廃止になった筑波鉄道の跡地を利用してできた。JRの岩瀬駅から土浦まで全長約40キロ。

タンデム自転車という二人乗りの自転車がある。ハンドルが二つ、ペダルが二つある二人でこぐ自転車だ。日本では、道路交通法によって、私有地や自転車専用道路でしか乗れない。

私は、重度の知的障害者である長男の運動不足を解消するために、アメリカ製のタンデム自転車を輸入して購入した。

彼は、三輪車は乗れたものの、小学生になってからは一人で乗る自転車に乗ることはできなかった。何度か練習したが、一旦断念し、それよりも二人乗り自転車に乗せることで、自転車の楽しさを肌で感じてもらおうと考えた。

私が「リンリンに行くよ」と声をかけると、しっかりとヘルメットをかぶり、喜んで私の後ろに乗るようになった。

タンデム自転車は、足をペダルに乗せているだけで、前の人が動かせば、必然的に後ろの人も動かすことになる。前に乗っている私が手を抜けば、自転車が進まなくなることを、次第に彼は理解していった。

それから4年、長男は、現在養護学校に通う中学1年生になった。

今は、もうタンデム自転車ではない。一人乗りの普通の自転車に一人で乗れるようになった。

自転車に乗れるようにするためには、言葉で理屈を説明しても意味がない。体が自然に覚えるまで練習するしかない。しかも、自転車というのは、一旦乗れるようになると、何十年も乗らないでいても乗れる不思議な乗り物だ。

ハンガリーの哲学者マイケル・ポランニーは、この概念を「暗黙知」(あんもくち)と名づけた。

暗黙知とは、経験や勘に基づく知識のことで、言葉などで表現が難しいものを言う。言葉も話せない重度の知的障害者であっても、自転車に乗れるようになったというのは、暗黙知と言う人間の能力があったからである。人間には、多少の訓練で、暗黙のうちに、身体を制御する知、自転車を制御する知を持つことができるのである。

暗黙知と言うのは、別の言い方をすれば、勘・コツ・ツボとも言えよう。

私は、経営者においても、勘・コツ・ツボが極めて重要だと思っている。

部下から報告を聞いた何気ない事柄に、これはマズイと感じたり、これは面白くなるかもと感じる勘は、以外にあたる。いや正確に言えば、経営者なら、あたるようにならなければならない。

また、相手と交渉するときのコツも持ち合わせている必要がある。しかし、このコツは、言葉で教えてもらっても、本を読んでもそう簡単に得られるものではない。理屈ではないのだ。ある意味で、数多くの交渉を経験している人のほうが、圧倒的に頭の中に引き出しがあって、どう切り出されても切り返す知恵を持っているものである。

部下を叱ったり、褒めたりする時のツボも重要である。タイミングや話し方と言った技法だけでなく、人の心を燃えさせるツボを知っていなければ、人は動かない。肩こりのツボではなく、人を動かすツボは、その人の性格、つまり生き様だから、そう簡単に身に着けることなどできないし、相手があることだから、いつも同じパターンではないから難しい。

経営者は、勘・コツ・ツボをもっと意識するべきである。

一方は、組織運営は、勘・コツ・ツボと言った目に見えないような指導方法では上手く行かない。

暗黙知の反対を形式知と言う。

手順書を作ったり、マニュアルに従ったり、規則やルールなどを作り、守ることで、それが組織の知識となり、組織の品質が保たれるというものである。

組織運営には、形式知は重要である。形式知がしっかりしている企業は、なぁなぁないい加減なやり方がなく、規律正しい組織になる。

アーリーステージの会社は、会社ができたばかりは制度や規則もなく、その場その場で決めていく。しかし、次第に人数が増え、一定のルールを定めないと、一貫性が取れた経営ができなくなるのだ。

しかし、さらに年数を重ねた会社では、形式知に頼るのは問題がある。

マニュアルにないものはできなかったり、慣例ができたりするのである。ルールによって、例外を排除したため、自由な発想や、形式にとらわれないやり方、今までのやり方を変えるということが難しくなるのである。

つまり、経営者は、暗黙知と形式知を上手く使い分けしなければならないのである。

組織は、人間の集まりである。人間には、一定のルールや縛りも必要だが、人間には暗黙知という素晴らしい目に見えない能力を持っているのも事実である。

ちなみに、私の長男は、形式知がズバ抜けて高い。自転車に乗る前は、何も指示をしなくても、必ずヘルメットをかぶる。自転車から降りると、決まったところにヘルメットを置き、直ぐに手洗いウガイをする。

人間の能力は、無限だ。

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投稿者 :堀田信弘: 2007年2月 8日 10:58