資金繰りというのは、社長にとって重要な仕事である。特にIT業界のように企業を相手にする商売の場合、入金のタイミングは都度日々ではなく、何十日後かになる。今でこそ手形での支払いは減ったものの、現金が入金されるまでの間は約束事項にしか過ぎないから事実上手形のようなものだ。
通常、社員への給与は末締めの翌月払いである。だから、1ヶ月間働いてくれた社員へ払う給与の原資は、この時点ではない。働いた分の現金が入ってくるのは数ヶ月後というのもある。
そうなると、来月の給与の原資もまたない。再来月の給与の時に、初めて顧客から入金がある。つまり、2ヶ月間は、現金がない状態が続くのである。
社員への給与総額が100万円としよう。2ヶ月間分で200万円必要となる。一ヶ月間で社員が稼いだ売上は150万円。粗利益50万円。3ヶ月目に売上の150万円が入金されるも、すぐに給与で100万円が出て行く。4ヶ月目、売上の150万円が入金され、すぐに100万円が出て行く。5ヶ月目も同様。6ヶ月目、給与を支払った後に初めて200万円が手元に残る。
この場合は30%以上の粗利益率だから6ヶ月で最初の投資額(資本金)で済むが、通常は中々そうは行かない。
資金繰りが上手く行かなければ黒字倒産もあり得る。
毎月入金されるような仕事の内容なら良いが、システム開発のように数ヶ月間かけて開発して納入するような場合はもっと大変だ。開発に10ヶ月もかかるようなものなら、開発着手してから入金は1年後ということになる。
時には借金をしなければ資金がショートする。
資本を調達したり、借金したり、社長は疾走する。それでもダメなら、自分の報酬を未払いにし、社員への給与を優先しなければならない。当然である。
予想通りに売上が達成できないことだって起こる。赤字決算であるなら、自らの報酬を減額しなければならない。自分で自分の報酬を決める。上げることは出来ても下げることはできない人も多い。
不祥事が起こることだってある。問題を起こした社員をクビにすれば済む問題ではない。最高責任者の社長は、自らの責任の所在を明らかにして、自らの報酬をカット、返納すると社内に知らしめることだって、やらなければならない。
それくらい社長の報酬というのは、不安定なものだ。
報酬が不安定ということは、社長の家庭の家計も不安定ということである。だから、安定している時に、不安定に備えて貯蓄をする。一度生活水準が上がってしまうと、下げることは難しい。だから、普段から不安定に備えて、過度な贅沢はしない。
家族の理解がなければ、社長業はできない。
わが社には、社長になりたい人が集まってくる。
しかし、皆同様にお金がない。大体、お金があるのなら、うちに来なくても、自分で独立できるのだから、そうでない人がくるのは仕方ないことである。
でも、全然ないと言うのなら、これでは話が違う。
「若くて、まだ給与が少ないから貯金がない」と言う。でも、そういう人は、いつまで経っても貯金はできない。私は、結婚する25才までの間に300万円貯金した。一流企業の高給取りではなく、年収200万円足らずの時だ。私は、貯金したお金で、結婚式を挙げ、ヨーロッパに新婚旅行に行った。親からの援助は一切貰わなかった。
「子供が小さいので、お金がない」と言う。でも、そういう人は、子供が大きくなったらもっとお金がなくなる。
私は、会社を作ったとき、一年間無報酬で働いた。それまでに貯めた1千万円の貯金は資本金に消えた。日々の生活費のために、親から借金をした。
自宅を担保に銀行から運転資金を借りた。妻や子供の貯金、生命保険も解約して、会社に1千万円貸し出した。
会社が増え、報酬も増えた。増えた会社へ出資した金額は1千万円を越え、増えた分の報酬は全て投資に消えた。生活水準は、会社を作った時と一切変わっていない。それどころか、貯金は底をついた。それでも、また新しい会社を作るために、毎月一定額を貯蓄に回し、次に備えている。
社長になることを目指している人が、お金がないというのは、もはや社長候補としては失格だ。
収入が少ないながらも、少しの蓄えはできるはず。もし、貯金があるのに、それは家族のためのもので会社には使えないと言うのなら、尚更、社長業など目指さないほうが良い。
家族を巻き込みたくないと思うなら、社長にはなれない。
社長になる以上、間違いなく家族を巻き込む。それを家族が反対し、家族の理解が得られないのなら、社長などならないほうが良い。
時には親や親戚に頭を下げて、したくない借金をしないといけない時もある。それができないのなら、社長などならないほうが良い。身内から借りることができないような人は、銀行から借りられる能力もない。
借金することを勧めている訳ではない。
しかし、お金がない人が社長になること自体が矛盾することをまず理解しないといけないのである。お金がなければ借りる以外に方法はないのだ。基本的にお金がない人は、社長になれないのである。
お金がある人が自己資本を元に投資し、その資本金分が有限責任になる。失敗すればそのお金は紙くずだ。人から出してもらったお金ほど、痛みを感じないものはない。自分で出していれば、そのお金の重さは痛感する。
どんなに株主を大切にすると言っても、自分がお金を出さなければ、株主に対する責任は薄い。
今回わが社は、社員を第三者割り当て先とする増資を行う。
今回、お金がないと出資できなかった社員で、将来社長を目指しているとするならば、今すぐに自分の生活スタイル、家族への理解、あらゆる面で総点検する必要があるだろう。
それができないのなら、社長になることはあきらめたほうが良い。
それくらい、社長になるということは、社員の生活を第一に考え、自分の家庭を犠牲にすることなのだ。
色々な事情がある人もいるだろう。でも、社長になったら、家庭の事情は、経営には関係ない。社員が一番、家族は二番なのだ。
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投稿者 :堀田信弘: 2007年7月 7日 11:22