ドイツの小説家ヘルマン・ヘッセが書いた短編「東方の旅」。メッカへ向けて旅をする一行、その中に召し使いレオがいた。一行は順調に旅を続けていたが、ある日突然レオがいなくなってしまう。
レオを失った一行は、それまでと違って、トラブルが相次ぎ、道に迷い、それまでのような順調な旅ができなくなってしまう。
何年も遠回りをしながらも、一行は挫折することなく、励ましあってメッカに向かう。
一行は遂にメッカに辿り着く。(中略)
サーバントというのは召し使いという意味だ。つまり、サーバント・リーダーシップとは、人をリードするというよりは、組織に(部下に)奉仕するという意味なのである。部下からもらうより、部下に与えよということである。
これは、私が『サーバント・リーダーシップ』の中で書いた一文である。
私は、2005年にこの文章を書いてから、今でも時々この内容を思い出すことがある。
この「サーバント・リーダーシップ」は、私の目指す「自由と責任ある組織」の考えの元になっているからだ。
あれから4年間、私は、自由と責任ある組織を目指し、求めてきた。私は、これからも変わらず、私の求める組織の姿として、自由と責任ある組織を永遠に目指したいと考えている。
それを前提として、いや、それを築くための段取りとして、少しだけ軌道修正しなければならないことがある。
それは、自由と責任のどちらかを選べと言われたら、これまでの「自由」を選ぶという私の考え方から、「責任」を選ぶに変えようとしていることである。
その軌道修正は、自らが最も自由を大切にしていながら、それを変えるというは断腸の想いだ。しかし、「自由と責任ある組織」を目指す以上、最終的な形は、自由と責任の両立だから、本来、どちら先で、どちらが上だというものではないはずである。
しかし、これまでの私は、自由に拘った。そして、その自由に対する責任を持たせることで、個性を活かした組織ができると考えていた。
だが、東南アジアの国々を回り、世界の最貧国の姿を知ると、自由は、与えられるものではなく、勝ち取るものだということを理解するようになった。
何でも揃う贅沢な日本にいると、自由とは、空気のように当たり前で、無くならないもの、無くなっては困るものという認識がある。
自由は当然であり、自由のない世界など、息苦しくて溜まらない。そんな世界を誰が望むことかと。私の根底には、そのような気持ちがあったのかも知れない。もっと言えば、自由を優先するとカッコを付けて、自由よりも責任を優先すると言いきることができなかったのかも知れない。
誰だって、責任よりも自由を優先されたら気分は良いだろう。しかし、それでは、自由を勝ち取るという当たり前のことが否定され、自由は与えられて当然だということになってしまう。
組織は、それで良いのだろうか。と何度も自問自答した。貫けるのなら、それでも良いだろうという気持ちをずっと保とうとした。
しかし、現実として、それでは責任が薄れることが顕著化してきた。しかも、自由が当たり前で、自由度を自らの成果で勝ち取ろうという気迫が薄れて行くことに危機感を感じ始めたのだ。
それは、私が、想定しなかったことである。完全に私のミスだ。
成果に伴って、自由度が広がり、自由度の大きさに伴って、責任の重さも大きくなる。こんな当然のことが、私のミスで、全く逆の結果を招くことになった。
私は、平和ボケ日本と公言しながら、自らの組織を平和ボケにしてしまったのだ。
私は、大きな失態をした。取り返すことが困難な失態だ。
それは、電気とエアコンのある部屋を一度経験した人間が、ロウソクと扇風機の部屋に住むことに苦痛を感じることと似ている。もし、最初に、ロウソクと扇風機の部屋に住んでいて、次第に努力の甲斐あって、電気が入り、やがて憧れのエアコンまでも入るようであれば良かったのだ。
私は、これと同様なことを何度も幹部に言ってきた。それは、決して生活水準を上げるなということである。一度上がった生活レベルを下げることは、簡単にはできないということである。経営者は、常にその覚悟がないと行けないという意味だった。
だが、私は、組織全体について、統制すること、例外を認めないこと、成果を重視すること、責任を持つことを、二の次にしてしまった。そして、遂にそれは、指揮命令という組織には当たり前のことが、指揮命令という言葉さえない組織になってしまった。
今、わが社は、この平和ボケから抜け出さなければならない。そして、自らの手で、できるだけ大きい自由を勝ち取れるような気迫を持たなければならない。
その結果、自由と責任ある組織が誕生する。私は、これから責任を優先した以上、鬼になる覚悟だ。それは、皆が自分の手で自由を手にしてほしいからである。
そして、レオと同様に、私が去った後も路頭に迷わない組織になってほしいからである。
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投稿者 :堀田信弘: 2009年4月 9日 05:54