テーブルクロスの上にある食器を倒さずに、素早く一瞬のうちにテーブルクロスを抜き取る芸がある。
食器に、できるだけ余計な力が加わらないようにする。素早いスピードと水平に保てるようにさっと抜き取れば、食器は元のまま止まり続けるという訳だ。
このように止まっている物体は、外から力を加えないようにすれば、いつまでも止まって続ける。また、運動している物体は、運動している状態のままい続けるのだ。
これに基づいて、止まっている物体は、物体に外から力を加えなければ動かない。運動している物体は、止ろうとする力が働かなければ止まらない。
これは、ニュートンによってまとめられた慣性の法則である。
かつて私は、『慣性の法則と風土』の中で、「方向性とは逆方向の力が働いて、それまでの状態を保とうと抵抗する力のことを慣性力という。」と書いた。
慣性力は、物体の質量に比例する。重い物体を動かすためは、重ければ重いほど大きな力が必要となる。しかし、一度動き出した重い物体の動きをこれまでと異なった動きに変化させるには、動かしたときと同様に慣性力という抵抗が自然発生するので、大きくて重いほどこれまでの方向を変化させるには大きな力が必要となる。
組織も同じだ。
動かない組織を動かすには、大きな力が必要になる。内部から動き出すのではなく、外部から外的要因を感じさせなければ動かない。
一方、既に動いている組織を、これまでと違った方向に動かすのにも、多大な力を要する。
ニュートンは、空気の抵抗や摩擦などがないことを前提に、運動している物体は、運動している状態のままい続けると定義した、しかし、実際には、地球上の自然環境においてはあり得ない。
そこで、私が考える組織における慣性の法則は、組織は力を加えなければ動かず、一旦動き出した組織でも、力を加え続けなければすぐに止まってしまうと定義する。
つまり、組織は、社会環境などの抵抗や人間関係などの摩擦によって、放っておけばすぐに動かない組織になるということである。
これは組織に限らず、人間の本質かも知れない。
もし、外的な要因がなかったら、人間は動物と同じように、必要な時だけ動き、不要な時は寝ているような生活をするであろう。
もし、食べ物が豊富にあり、狩猟や農耕をせずも生活することができたら、仕事などするだろうか。もし、学校という制度が世の中に存在しなかったら、それでも進んで勉強するだろうか。
しかし、現実には、外的な要因が働き、生きるためには、止まっている訳には行かないのである。外的な要因を感じれば感じるほど、動かなければならないという意思が働くのであろう。
そのように考えると、私が考えた組織における慣性の法則は、外的な要因を感じれば自発的に動くようになるとも、補足することができる。
つまり、力を加えなければ動かず、力を加え続けなければすぐに止まってしまうという力とは、二つの可能性があると言えよう。
一つは、リーダーなどが、強い指導力、牽引力により、組織をグイグイと動かすことである。
もう一つは、外的な要因を感じ取れるような組織、風土にすることで、その感じ取る力を基に自発的に動くことである。
前者は、動かされることであり、後者は、自ら動くことである。
このように表現すると、誰しもが動かされるよりも、自ら動いたほうが良いと言うに決まっている。その典型は、私自身であり、私も自発性や自主性を重んじたいと考えてきた。
これからもそのようにしたい。しかしながら、言うは易しいが、何もしないでそれを実現することは極めて難しいことを理解しなければならない。
例え話として、プロボクシングの選手を例に考えてみる。
良く言われることだが、ハングリー精神があればあるほど、ボクサーに向いている。それは、何として勝つんだ、生活がかかっているんだという強固の意志があるからである。強固な意志があればあるほど、きつい練習にも耐えられるのである。
きつい練習に耐える能力があれば、必然的に強くなる。だが、アマの選手はそれでも良いが、プロはそれだけでは通用しない。
アマとプロの違いは、プロはコーチと完全に一体となりトレーニングすることである。本人任せの練習メニューは、どうしても甘くなる。さらに、どんなに強い意志があると言っても、適切で適格な練習ができなければ無駄な練習になる可能性があるのだ。
そういう意味で、プロボクサーとは、コーチと二人三脚で戦うスポーツだと言っても良いのである。
これを前提に組織に当てはめると、リーダーがコーチの役目になることの意義が判ろう。
コーチとは、単に無理な練習をさせるのではなく、その人の限界を現状よりも少しでもアップするように、助言、指導することである。
そこで、私が考える自ら動く組織にするのは、リーダーの助言と指導力といったコーチング力が重要なのだと考える。
このコーチング力は、リーダーの持つ感性そのものである。外的な要因を感じ取れるような組織、風土にするのには、リーダー自身が外的な要因を誰よりも敏感に感じ取る伝えることができる感性が不可欠である。
単に危機をあおるのではなく、リーダーの感性を、組織が同じような感覚となって、自らが感じ取れるようにすることである。言いかえれば、リーダーの感性と組織の感性を一致させることだ。さらには、多数のセンサーを備えた組織の感性が、リーダーに瞬時に伝わることである。
リーダーは、自らの感性を磨き、組織の感性を働くように伝える。これができれば、組織は、自ら感性を機能させることで、自発的に行動できる組織になろう。私は、こんな組織を目指している。
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投稿者 :堀田信弘: 2009年5月15日 05:44