私はかつて、『売る力』の中で、『売る力とは、相手より、こちら側が主導権を握ることである。それは、一方的に話をすることではない。お客の心理を気持ち良くしてコントロールできるか否かである。』と述べた。
さらに、『聴く力』の中では、『話ができない人は、耳で聞いているように見えるが「聴く」能力は弱いと言える。正確に言うと、「聴く」という能力は、聴き出す力であり、相手に話をさせる力とも言える。』とも言った。
また、『語る力』では、『語る力は、話す力ではない。話の上手下手ではなく、想いを語ることである。話が下手でも、何とか判ってもらおうという気持ちが強ければ、真剣さが伝わることだろう。これが語る力だ。語る力は、ヒトを引き付ける力と言い換えることができる。』と言った。
さて、ここで整理してみると、売る力というのは、売り込む能力ではなく、買ってもらう力である。また、聴く力とは、話を聞くことができるのではなく、聴きだすことができる力である。そして、語る力とは、話す能力ではなく、人を引き付ける力だと言えよう。
この三つの力を取りだして、私が言いたいのは、引き出すことができる能力のことである。
まずは、営業能力について考えてみよう。
買う気のない商品を、相手の意志に反して無理やりに買わせようとする行為を押し売りと言う。押し売りという言葉に代表されるように、営業マンの中には、押すことが売ることだという誤解をしている人がいる。
確かに世の中には、買うつもりなどなかった人が、一時的な欲望や感覚で、実用性やコストを無視して衝動買いという形で思わず買ってしまう人がいるのも事実である。しかし、あるデータによると、衝動買いした人のほとんどは、その商品を継続して利用しなかったり、あるいは後悔していることが大半である。
つまり、衝動買いをさせようとするような押し売りは、一時的に購入者ができたとしても、決してビジネスとしては長続きしない。
そのことを知らないのか、営業というのは話が上手で、お客をねじ伏せようとするような押し売り型こそが、営業であると大昔のモーレツ営業マンを理想と思っている営業、経営者がいるが、それは間違いだ。
間違いというのは、単に営業手法について言っているのではなく、自分本位に一方的に相手をたたみ込もうとする姿勢が間違っているというのだ。
有能な営業は、顧客の心理を読み取り、顧客の要望を引き出して、顧客が求めるものを求める形で、気分良く購入してもらうことである。気分良く買ってもらうには、こちらの話を聞いてもらうことよりも、こちらが聞いてあげる側になることなのである。
こちらが聞くためには、相手に話をさせなければならない。ただじっと黙って話を聞き入るのではなく、気分良く話せるように、話を広がるように、話をし易くし相手の気分をのせることである。従って、営業が話すことは、相手に題材を与え、話易いようなネタを振ること、質問をすること、これが話すことである。
つまり、話すことの大半は、話をしてもらう、話をし易くするためのものなのだ。言わば、聞いてもらうのではなく、聞き出すことなのである。
これを読んでいるリーダーは、自分が営業職でなくても、聞き出すことの重要さについて知らなければならないであろう。
その理由は、それが理解できないようでは、リーダーが語る力を持てるはずがないからである。
リーダーにとって、語る力は極めて重要なスキルである。私は、語る力がなければ、リーダーではない言っても過言ではないと考えている。
その語ることに対し、前述の営業と同様に、単に話が上手と誤解しているようではナンセンスだ。リーダーは、話すのではなく、語るのである。
語るとは、人を引き付けることである。引きつけるというのは、耳触りの良いご機嫌取りの話だけではそうはならない。もちろん、厳しい話をするだけでもない。時には厳しく、時には優しく、場所と場面と、相手の気持ちを察しながら、引きつけるのである。
そして、最も誤解してはならないのは、引きつけるとは、引き寄せるのではなく、相手の気持ちを引き出すことである。相手の気持ちを引き出すというのは、相手の気持ちを知ることができるということだ。
つまり、営業であれ、リーダーであれ、相手を引きつけるには、相手の気持ちを引き出すということが重要なのである。
リーダーの語りは、政治家の演説ではない。聴衆を前にして話をするのではなく、目の前の部下、一人一人に、こちらの想いを伝え、相手の気持ちを引き出すことで、その人の考え方に応じたリードをすることである。
語ることは、一朝一夕にはいかない。日々、少しづつ訓練するしかないのだ。その訓練の基本となるのが、相手をひきつけるために、相手の気持ちを引き出すということを意識するということだと思っている。
私は、引き出すことよりも、引き出されるほうが得意なのだが、少しでも引き出さなければという意識は人一倍強い。
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投稿者 :堀田信弘: 2009年8月13日 05:44