私は今から15年以上も前、社内のキャリアパス制度を設計するために、様々な勉強をした。中でも参考になったのは、アメリカ軍のキャリアパス制度である。
アメリカ軍のキャリアパスは、専門性、専任性により区分されており、単純なピラミット型ではなく、多様性があって、複線形であることに驚きを覚えた。
当時、日本は、年功序列から能力主義が叫ばれ始めた頃で、キャリアパスというような表現をするような中小企業はほとんど見受けられなかったように記憶している。
IT業界でも、専門性や専任性によりも、経験度を重視する傾向が強かった。プログラマーを経験した後に、システムエンジニアとなって設計するようになり、その後、優秀な人がプロジェクトマネージャーになるという単線形の流れであった。
現に、当時通産省が管轄していた情報処理資格試験では、主にプログラマーを対象とした第二種情報処理試験があり、その上位にシステムエンジニアを対象とした第一種情報処理試験があった。さらに上位には、プロジェクトマネージャー向けの特種情報処理試験となっており、単線形のキャリアパスを意識したものであった。
その後、現在の情報処理資格試験は、複線形になった。基本情報処理試験の後には、専門性や専任性を取り入れた複数の職種から選択できるように多様化、細分化されたのである。
当時私が感じていたことは、プログラマーとシステムエンジニアとプロジェクトマネージャーは、役割が異なるのあって、どちらが上位だということではないということである。
それは、優秀なプログラマーが、その職位を卒業して、必ずしもシステムエンジニアとして活躍できるとは限らないからである。当時は、プログラマーに不足していると言われたコミュニケーションスキルやヒューマンスキルを身につけさえすれば、顧客から要件定義ができるシステムエンジニアに育つはずだと考えられていたのだ。
そのため盛んにコミュニケーションスキルが重要だと求められていたのだ。しかしそもそも、技術者にとってコミュニケーションスキルとは何ぞや。人と話す能力か、話を理解する能力か、意味不明である。
また、同様に、基本設計ができるようなシステムエンジニアならば、きっと複数のプログラマーを管理しながら、チームで開発する責任者、つまりプロジェクトマネージャーになれるとも考えられていた。だが、設計能力と人を管理する能力は、明らかに違いすぎる。それなのにあの時代は、そう信じられていたのだ。
つまり、今の職位が十分にできれば、きっとその上位職位も、少し経験すればできるはずと考えられていたのだ。経験が多ければ、その上の上位職種も対応できるだろうという発想だ。
しかし、私が社内のキャリアパス制度を設計しようと周囲を見渡すと、とても上位職種など対応できる人材がいないことに気がついた。上位職種を対応できるものはむしろ僅かであり、それができない理由として、一般的にコミュニケーションスキルやヒューマンスキルを身に着ける機会が少ないだけだからだと結論付けられていたのだ。
だが、そもそもコミュニケーションスキルやヒューマンスキルというのは、身に着ける機会を与えたからと言っても簡単に身につくものでもない。そもそもシステムエンジニアとプロジェクトマネージャーにおいて、それらのスキルだけを取り出して有能なエンジニア、マネージャーとも言えないのである。
そして私は、アメリカ軍の専門性、専任性という考え方に深く興味を抱いた。
専門家を育成すること、適性に応じた仕事の専任化を図ること、それほど人間は器用な人間ばかりではないこと、職種に上も下もないことなど、指示命令系統の縦方向とは別に、キャリアパスには横方向の多様性も必要なのだと理解した。
私が最初に『マネージャーとリーダーの違い』について書いたのは、もう5年近く前になる。それは、私が複線形のキャリアパスを考える中で生まれた発想であった。
私は、マネージャーとリーダーとは、全く正反対の特徴を持った職種であると、役割が異なることを主張した。この意見の背景には、私がキャリアパスを設計した当時、管理職と呼ばれる人を詳しく分類すると、いくつかのタイプに分けられたことに起因している。
当時管理職と呼ばれた人は、年功序列型の単線形の中で昇格した人たちである。従って、管理職になるには、経験年数が大きなウェイトを占めていた。
そのため経験年数が多い人の中には、プログラムを作成した経験が長い人、プログラマからシステムエンジニアになって設計経験が長い人、システムエンジニアからチームを率いるリーダー経験が長い人など、何らかの経験を持った人が管理職とされたのだ。
管理職になると、部下を持たされる。当時は、課という単位で課長が設けられ、課単位で利益計画も立てさせていた。利益計画を立てるということは、それまでのエンジニア経験に変えて、営業もしなくてはならない。管理職なのだから営業もできなくてはダメだという発想である。
しかし、私は、エンジニアとして優秀であったとしても、その経験で管理職になるというのは如何なものかということを感じていた。現に、管理はできないし、できないのにマネージメントを学ぼうともしない、さらに、そのような人が営業などできるはずもなかったのだ。
そこで私は、できない彼らが問題なのではなく制度が問題だと考えた。
管理職だから営業もできなくてはダメだという発想そのものが間違っている。管理職だからできないといけないのではなく、営業もできる人だけを管理職にしていないから、できない人に求めることになるのだ。マネージメントも同じだ。エンジニアとして部下への技術指導はできても、技術以外の視点で部下を育成したりするのは、本人がそのような仕事を望んでいないとしたら、できるはずがないのである。
そのような背景から、私は、管理職を専門職、専任職、総合職という三つの職種に分類することにした。専門職は、技術を中心にマネージメントする。専任職は、長年携わってきた業務を中心にマネージメントする。そして総合職は、組織全体をマネージメントする、というように分類したのだ。
そして、その職名を、専門職はマネージャー、専任職はチーフ、総合職はリーダーと呼ぶことにした。これは、『ゼネラリストとスペシャリスト』と分類したのと同様でもある。
それ以来、私は、マネージャーとリーダーの違いについて、全く正反対の特徴を持った職種であると、役割が異なることを主張したのである。つまり、マネージャーとリーダーは、横並びであり、上下関係ではないと言ったのだ。
だが、私は、これまでの15年間の考えかを改めようと思っている。
それは、キャリアパスの専門性、専任性といった複線形全体のことではない。マネージャーとリーダーの関係についてだ。
結論から言うと、マネージャーとリーダーは横並びではなく、リーダーの下にマネージャーが位置づけられるというものだ。
私がこれまで主張してきた、マネージャーとリーダーは全く正反対の特徴を持った職種で、役割が異なるということには些かの変更もない。しかし、横並びではないということを改めるのだ。
簡単に言えば、マネージメントというマネージャーが行うべき事項を遂行できないものは、決してリーダーにはなれないということだ。
実はこの考えは、正確に言うと15年前と変わったのではなく、15年前も同じ考え方を持っていた。当時私が描いた本音のキャリアパスは、専門職、専任職を管理職の対象から外し、その上位に総合的に行える管理職を置こうというのが構想だったのだ。
しかし、現実には、そのほとんどを占めることになる専門職、専任職を、管理職から外すというところまでの大胆な改革が断行できなかったのである。
さらに、それとは別に、これまで全管理職が総合的なマネージメントを要求されていたところから、細分化し役割をフォーカスすることで、それぞれの持ち味が活かせるのではという希望もあった。またそれによって、多少なりとも絞られた分野に限っては、マネージメントができると期待したのであった。
ところが現実には、マネージメントができる技術者というのはそんなに多くない。それは、営業職においても同様だし、事務職においてもしかりだ。これは今でも同じである。
その結果辿り着いたのは、管理職とは、それまでの業務経験ではなく、マネージメントができる人を任用しなければダメだということである。さらに、マネージメントができない人がリーダーとして、リーダーシップを発揮できるはずがないのだ。また、マネージャーとリーダーは、全く正反対の特徴を持った職種で役割が異なるのだから、仮にマネージメントができたとしても、リーダーシップが取れるリーダーが務まるというものでもない。
つまり、リーダーというのは、マネージメントができる人の中から、リーダーシップが取れる人しかなりえないのである。
これを組織体系で表すと、組織のトップには、リーダーシップが取れるマネジーメント経験をもった人が立ち、その下に、リーダーを支えるマネージャーがいるとい形が、私が考える構成である。
マネージメントができないリーダーは、リーダーに非ず、これが私の答えだ。
ましてや経営者なら、マネージメントができないようでは話にならないであろう。
最後まで読んで頂き、感謝申し上げます。
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投稿者 :堀田信弘: 2009年11月21日 05:06