なぜ、トヨタは、豊田佐吉から、喜一郎に、そして、章一郎に引き継ぎ、松下は、松下幸之助から正治、正幸と引き継ぎました。優秀な他人に経営を任せるのではなく、血の繋がりがある身内のほうを信じ、経営を任せるようにしたのでしょうか。
なぜ、他人ではだめで、身内なら問題ないというのはどういうことなのでしょう。
恐らく多くの人は、北朝鮮が三代にも渡って権力を継承する世襲を、当たり前のように批判することでしょう。さらには、日本の政治家の世襲も批判するはずです。
また日本は、世界最長とも言える125代もの天皇制が今でも継続しています。現在は、北朝鮮とは異なって権力こそ持っていませんが、特別な存在である人の継承が、世界でも珍しいほど長年に渡って継続しているのです。
そのような状況や歴史的背景があるからこそ、日本の企業の経営においては、世襲が当たり前なのでしょうか。政治における世襲は悪で、企業においては善なのでしょうか。政治家が、地盤、カンバンを引き継ぐのと何ら変わらないのではないでしょうか。
そして、なぜ、財を構築することができた有能な経営者であるのに、その後継者には、本当に狭い身内という限られた範囲の中から選ぼうとするのでしょう。できるだけ広い範囲の中から選んだほうが、さらに有能な後継者を見つけることができるはずなのに。
それは、他人を信じることよりも、血の繋がっている身内のほうが信じられるからでしょうか。
それほどまでに、他人に任せることが怖いのでしょうか。それとも、本音は継がせたいのではなく、自分の言いなりになって、自分の分身として都合の良いように動いてほしいからなのでしょうか。
誰しも、家族を大切に、家族を愛する気持ちは同じでしょう。しかし、その気持ちのまま、家族という私的なことを第一として、企業経営内にその思想を入れるのは私には理解できません。家族のために、企業内の組織は二の次になるのですから。
先月リビアを訪問した時、リビア人の一族を大切にする姿に、驚きさえ覚えました。自分の家族だけでなく、親戚も含めた一族のことを第一に考え、一族で助け合って生きています。
リビアは、世界でも最もイスラム教に熱心な国で、また世界で最も厳格な国であります。イスラム教を国教としていることが影響しているのかも知れませんが、他の国に比べ、遥かに家族主義、一族第一主義が強いように感じました。
血の繋がりは、最大の繋がりのようで、日本のような、子供が親を殴ったり、親が子供を殺したりするようなことは、絶対にあり得ません。父親を中心に、極めて厳格でありながら、とても仲良く、従兄や親戚との間も、特別に大切にしているようです。
その考え方が、イスラム教の教えなのかは判りませんが、少なくても、イスラム教固有の一夫多妻という考え方の根底には、家族主義があると思います。
一夫多妻というのは、誰もができるものでありません。男性が力があり、能力があり、裕福な者だけが、多くの妻を持つことができるのです。そして、複数の妻を隔たりなく、彼女たちを平等に愛し、子供を増やすことができれば、その集団である一族が幸せになるという考えなのです。
同じ血を引く一族を大切にするという考え方は、決して間違っていません。親や兄弟、親の兄弟やその子と繋がりを持つというのは、自然な考えです。もし、一夫多妻で多くの子供たちが生まれれば、それらが助け合い、協力しあい、強い絆の元で団結すれば、他の家族よりも強い集団になるのでしょう。
しかし、その一族主義が強すぎると、血の繋がりのない人は、果たして彼ら一族にとって、どのような存在に映るのでしょうか。
元々、人類はみな兄弟という言葉がある通り、我々人類は誰しもがアダムとイブの血を引く兄弟なのです。
しかし、同じ兄弟の中でも、肌の色が近かったり、話す内容が理解できて、より傍にいる人と、さらには、宗教が同じ人との間のほうが、絆が強くなって行くのでしょう。
そうなると、場所的にもより遠い人、さらには宗教も異なる人、そして、その中でも、学歴も性格も異なるとなると、そのような人は、絆が強くならないと考えられるのでしょう。
つまり、人間は、身近にいて、かつ共通点が多い人との関係ほど、強い絆が築きやすいということになるのです。最も傍にいて、最も長い時間を共有し、最も理解してくれる人こそが、信用できるということなのでしょう。
この最たるものが、世襲という考え方なのです。
世襲というのは、他人を信じられないことの究極の考え方です。他人と身内を天秤にかける前の段階から、すでに身内のほうに大きな重りが乗っていて、他人を選択する余地がない状態なのです。他人が信じられないということよりも、他人が怖いのかも知れません。
どんなに信じていたとしても、裏切られることへの恐怖感があるのかも知れませんね。
皆さんは、もし自分が、北朝鮮の金正日だったとしたら、他人に強大な権力を渡すことができるでしょうか。皆さんが金正日だったら、他人に権力を渡すことのメリットとデメリットはどんなことがあるの冷静に考えることができるでしょうか。
アメリカの大統領のように、国民の選挙によって選ばれるのであれば良いのですが、北朝鮮では指名で決まってしまいます。つまり、後継指名によってのみ権力が継承されるのです。
それは、権力のトップにいる金正日が、自分が掌握している権力の強大さについて一番良く知っているからでしょう。権力がいかに恐ろしいか、権力で何ができるかを十分に把握しているはずなのです。
だから、それが一旦、血の繋がりのない人に渡れば、その後、残された自分の家族がどのような状況に陥ってしまうかも想像できるのです。自分が築いた権力がいかに恐ろしいかを知っているから、恐ろしくて、恐怖のために渡せないのでしょう。
そしてまた、渡せないのではなく、渡す必要もないのでしょう。渡すことのデメリットは十分知っていても、渡すことのメリットは全くないと考えているのに違いありません。
企業の継承においても、身内に引き継ぐというのは、何が恐ろしくて、他人に渡せないのでしょうか。どんな恐怖感があるのでしょう。
私には、全く理解できません。
(次回に続く)
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投稿者 :堀田信弘: 2011年2月 3日 05:04